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zoom RSS 公募増資インサイダー取引事件とJ-REIT

<<   作成日時 : 2012/07/03 12:02   >>

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〜公募増資インサイダー取引事件はJ-REITにとって「対岸の火事」ではない〜

コンプライアンス・アドバイザー 岡本展幸(おかもと ひろゆき)

 「J-REITに求められるコーポレート・ガバナンス」と題して、セミナー講演を行う機会が4月と6月にあった。内容的に奥の深いテーマを数多く扱ったせいか、3時間のセミナー時間が短く感じられた。

 そのセミナーの中で、講演者である筆者はJ-REIT(不動産投資信託)の資産運用会社(以下、「運用会社」という)におけるガバナンス体制のあり方やコンプライアンス体制のあり方などについて解説するとともに、運用会社が行うIR業務に関連したガン・ジャンピング問題(有価証券届出書の提出前の勧誘禁止規制)とJ-REITのインサイダー取引を取り上げた。

(1)法令等の改正
 金融庁は、現在、J-REITの資金調達手段を広げ、従来の投資口(企業の普通株式に相当)や投資法人債(社債に相当)に加えて、株主割当増資や新株予約権付社債(転換社債)の発行解禁の検討を開始している。さらには、インサイダー取引規制の対象にJ-REITも含める方向で関連法令の改正を行う予定である。

 このような金融庁のJ-REITに関する法令の改正動向を鑑みると、今後、投資法人による資金調達は多様化し、活発化することは容易に想定されるところである。それに伴い運用会社に今後、一層期待される役割は、投資法人に対するより専門的でより高度な資金調達支援でありIR業務である。

 運用会社による投資法人に対する資金調達支援業務もIR業務もともに、有価証券の「発行市場」に密接に関連してくる業務である。運用会社がより「発行市場」に係ってくるということは、「発行市場」における様々なプレーヤー達とも接触する機会が増えることになる。つまり、ガン・ジャンピング問題やインサイダー取引が発生しやすい領域により踏み込むことを意味する。

 したがって、運用会社が行うIR業務に関連したガン・ジャンピング問題、ならびにJ-REITのインサイダー取引はコンプライアンス上、対応すべき重要課題として、今後、浮上してくることは間違いないであろう。


(2)運用会社のコンプライアンスに死角はないのか?
 運用会社は、有価証券の発行者ではなく主幹事証券会社でもない、J-REITはインサイダー取引規制の対象にはならない、といった慢心と安心感により今の運用会社の社内管理体制にコンプライアンスからの死角は生じていないだろうか?

 IRの起源は、1953年に米国のGE社が社内にIRの名を冠した部署を創設したことによるが、日本の上場企業がIRに関心を示し始めたのは、1980年代の中ごろと言われている。日本においては、いまだにIRとPRの混同さえ一部では見られ、投資家や社会全体においてもIRに対する理解や重要性の認識が十分に浸透しているとは言えない状況が続いているようだ。

 J-REITのIRは、通常の上場企業のIRとは、多少、異なった業務経験や法令知識などが要求される分野である。大雑把に言ってしまえば、有価証券の発行者である投資法人の資産運用を受託している立場の「運用会社」が投資法人のために行うIRは、宅地建物業法等に加え、金融商品取引法、投資信託及び投資法人に関する法律、投信協会規則、東証上場規則、さらにJ-REIT市場動向等を踏まえ、投資家へ必要事項を説明するという多種多様な専門的知識と業務経験が要求される分野である。

 J-REIT市場は昨年、創設10年を迎えたものの、J-REIT業界は市場拡大のスピードと比して、人材の面で供給が需要に追い付いていない側面がある。J-REIT市場は、「金融と不動産との融合」という掛け声で設立された市場であるが、運用会社の経営陣や従業員は圧倒的に不動産業界出身者が多く、金融業界出身の者が少ないようだ。

 運用会社には不動産に対する知識や経験も当然必要とされるが、それと同等かそれ以上に金融業務に係る知識や経験が必要とされる実務的場面が多い。近い将来、投資法人による資金調達の多様化が実現することが予想される。それに伴い、投資法人による資本市場を通じた資金調達の機会も増え、今まで以上にIRの優劣が投資法人の投資口等に対する株主や投資家の評価に影響を与えることが予想される。

 IRの活発化は一方では、運用会社が潜在的危険ゾーンである「有価証券発行市場」領域にさらに踏み込むことであり、コンプライアンス違反が発生する可能性が拡大することでもある。真っ先に想定される違反行為としては、「ガン・ジャンピング」(有価証券届出前に勧誘行為を行う違反行為)があげられる。

 運用会社が投資法人のために行うIR業務は、ここでいう「勧誘行為」と類似した行為内容を含む一連の業務行為である。どのような行為が届出前の勧誘禁止規制で禁じられる「勧誘」に該当するのかという基本的な重要問題に対しては、当局による体系立った明確なガイドラインは、今のところ公表されていない。法令上の定義条文も存在しない。

 従って、現場での対応策としては、断片的に公表されている関連資料等をつなぎ合わせ、社内でも管理体制について十分、議論を重ねたうえで、出来る限り実効性のある社内管理規程などを作成するとともに、その内容を社内で周知徹底することを事前に押し進めておくことである。

 一方、IR業務は、一歩間違えば、一部の者に公表前の情報を提供してしまい、インサイダー取引と同様な不正取引の機会を何者かに与えてしまうリスクを孕んだ行為である。

 繰り返しになるが、金融庁は上述した投資法人の資金調達の多様化に対する検討と同時に、投資法人の発行する有価証券も金融商品取引法上、インサイダー取引規制の対象となる有価証券に組み入れる方向で検討を開始している。

 資金調達の多様化の実現と同時に投資法人の有価証券もインサーダー取引規制の対象となるのは時間の問題であろう。


(3)「公募増資インサイダー取引事件」は、「対岸の火事」ではない
  上記セミナーを通じて筆者が強調したかった点は、今年の3月頃から新聞や雑誌の誌面を賑わしている「公募増資インサイダー取引事件」は、J-REIT関係者、運用会社にとっては、決して「対岸の火事」ではないということである。

 
 当事件の中核的な発生原因は、上場企業の増資情報をいち早く掌握できる立場にあり、また、増資の発行手続きを実施的に取り仕切る立場にある主幹事証券会社の営業員が未公表の増資情報を不正に顧客投資家に伝えたことによる。

 コンプライアンス管理の観点から当事件を端的に捉えるならば、主幹事証券会社内における引受部門と営業部門の間の情報隔壁(いわゆる、チャイニーズ・ウォール)の管理不十分、関連社内規則に対する社内周知の不徹底が主因と言える。このような社内の情報管理体制を構築し、実効性を高め、万全を維持するのは決して容易なことではない。

 この事件の構図をそのまま、J-REITに当てはめてみると、主役の主幹事証券会社の立場はそのまま残るが、上場企業に該当する投資法人と資産運用委託契約を締結している運用会社が、有価証券の発行者である投資法人とだけではなしに、主幹事証券会社と密接不可分な関係を維持しながら、今回、公募増資インサイダー取引の温床となった、有価証券の「発行市場」近くに位置していることに気がつく。

 投資法人が行う増資などの資金調達(ファイナンス)には、実務的には、運用会社の方が有価証券の発行者である投資法人よりも深く係ってくる。一般の上場会社の増資などとは異なり、発行者ではない運用会社が主幹事証券会社とともにファイナンスを企画・実施するという業法的制度が、一層、J-REITのファイナンス準備期間におけるコンプライアンス・リスクを増幅させる要因にもなっている。

 以上のように今後のJ-REITに係る関連法令等の改正の将来的な流れを見ていくと、今回の一連の公募増資インサイダー取引事件は、J-REIT関係者や運用会社にとっては、決して「対岸の火事」ではなく「隣家の火事」なのである。(了)

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