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zoom RSS 絵画のような空間

<<   作成日時 : 2015/11/01 17:41   >>

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  2015年11月1日

 私は仕事を早く終えた帰りに表参道駅に降り立ち、ふとある本屋に立ち寄ることがある。駅から歩いて10分とかからないところにあるのだが、表通りからは奥深いところに位置しており、さらに周りの人が行き交う路面の高さからは一段深くさがったところにある。そのため店の外観さえ容易には視界におさめることはできない。私は何年か前に付近の裏通りをふらついているときに、偶然、みつけたのだが、明るく、お洒落で、独特な店の雰囲気が気に入ってしまい、特に欲しい本がないときでも、自然に足が向いてしまう。

 その建物は青山通りに面した高いビルの谷間を抜けて、手入れの行き届いた緑の植え込みが両側に施された細い歩道を突き進んでいくと、突如と眼下に表面を大きなガラス張りにした顔を表してくる。店の中に入るには階段かエスカレーターで降りていくしかないのだが、ガラス張りの外壁の前は中庭のように程よいスペースが確保されており、そこには自然な間隔を維持しながら何席かの白いラウンド・テーブルが白い椅子とセットで緑の樹木に囲まれて配置されている。そして、いつ行ってもテーブル席が人であふれていることはなく、都会の喧騒を逃れるように静閑の中でゆったりと寛いでいる若い男女や、一人で何かの本を読みふけっている人を何組か目撃するだけだ。

 歩いてきた地面から十数メートルだろうか、地下にもぐるようにして店の入り口にたどり着く。中に入ると地下にある割には、店内の圧迫感や暗さは感じない。入り口の左壁を全面ガラス張りにして日差しを十分受け入れるように建物が設計されているのと、工夫された照明効果で店内はすこぶる明るく感じる。広さや天井の高さも十分で、フロアの一面には数多くの書籍や雑誌が、お洒落なブティックの棚に綺麗に陳列された衣服のようにゆったりと並べられている。しかし何かを語りかける絵画のように、どれも個性豊かな顔や色を持ち、同じ方向には向いていない。

 書店の個性は、自分の経験則から言っても店内に足を一歩踏み込んだだけで分かるものだが、この店の入り口近くにはいつも、店主こだわりの小さな「特集コーナー」が設けられている。これらの書群は、まず他店では見られない類のものだ。本の内容は静かな語り口ながらにも主張があり、文化や歴史があり、そして文学性、芸術性が本表紙の色やタイトルからでさえ感じられるものばかりだ。

 建築やファッションをあつかった洋書も多く取りそろえており、アパレル関係の仕事をしているな、と一目でわかる風貌の若者を見かけることも多い。近くに私立大学があるせいか、先端をいくファッションを取り込んだ身なりのお洒落な女子学生や男子学生が、何かの本を目で探しながら書棚の前でたたずんでいる姿をときおり見かける。そんな目の前の被写体は風情があり、店の雰囲気に溶け込み淡い水彩画のような一枚の絵になる。

 それと同じような現象が店で偶然、手にした書から思わず立ち上がることがある。ある日には、それがヘミングウェイの『海流のなかの島々』からであったり、また、ある日には須賀敦子の『ミラノ霧の風景』からであったりするのだ。須賀のエッセイやヘミングウェイの小説を読んでいると、「言葉がほとんど絵画のような種類の慰めをもってきてくれる、画家がくれるような休息を書物からもらうことがある・・・・」(須賀)のだ。 私は今日も、ひと時の休息をもらいに絵画のような空間に足を運ぶ。(了)

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